Reading Log(構造読解/保留ログ/結論なし)
計算可能な処理が移動したあと、人側に非標準処理が濃縮される位相
Observation
企業活動の一部では、
人間の経験や、 非公式な調整によって処理されていた業務が、
データ、 モデル、 ワークフロー、
などによる 計算可能な処理へ移り始めている。
ただし、
人間が持つ知識や判断のすべてが そのまま計算系へ移るわけではない。
移されやすいのは、
・記録できる ・形式化できる ・反復できる ・一定の条件で再現できる
といった処理である。
一方で、
・例外処理 ・障害対応 ・現場調整 ・技術継承 ・条件外の判断
などは、
計算系導入後も 人側へ残る場合がある。
また、
人員削減後に、
退職者や外部人材へ 過去の知識を再び求める事例も語られている。
さらに、
初級・定型業務が自動化されることで、
それらの業務を通じて 経験を蓄積していた経路そのものが、
細くなる可能性も残る。
Structure
ここで露出しているのは、
仕事が、
人
↓
AI
へ一方向に移る構造だけではない。
むしろ、
業務の内部が、
計算可能な処理
と、
計算しにくい処理
へ分離される構造である。
形式化しやすい処理は、
計算系へ移る。
一方、
形式化しにくい差分は、
人側に残る。
すると、
標準処理
↓
計算系へ移動
例外・差分・未定義
↓
人側へ残留
という分布が生じる。
このとき、
人間の仕事量が 単純に減るとは限らない。
処理件数が減っても、
残る仕事の中で、
判断、 例外、 責任、 調整、
の比率が上昇する可能性がある。
つまり、
人側に残る仕事が、
より非標準な処理へ 濃縮される。
Dynamics
自動化の初期では、
反復量の多い定型処理から 計算系へ移りやすい。
反復
↓
記録
↓
標準化
↓
計算可能化
↓
自動処理
が成立する。
この移行が進むほど、
通常時に発生する 大量の標準処理は、
人間から見えにくくなる。
一方、
計算系が扱えない状態だけが、
人へ戻される。
通常状態
↓
計算系
条件外
障害
曖昧
例外
↓
人
となる。
その結果、
人間側では、
仕事の量よりも、
一件あたりの判断密度が 高くなる可能性がある。
また、
以前は定型処理の反復中に、
・正常状態を覚える ・微細な差を知る ・失敗パターンを経験する ・先輩の修正を見る
といった形で、
暗黙に技能が形成されていた場合、
定型処理の消失は、
技能形成経路の消失にも接続する。
すると、
初級処理を自動化
↓
経験入口が減る
↓
中級者が育ちにくくなる
↓
例外処理を担える人材が減る
という時間差が 発生する可能性もある。
Silence
計算系へ移された仕事は、
比較的可視化しやすい。
例えば、
・処理件数 ・時間削減 ・人員削減 ・エラー率 ・コスト
などで記録できる。
一方で、
人側へ残った仕事は、
同じ粒度では測りにくい場合がある。
特に、
・例外条件を読む ・障害時に迂回する ・制度と現場の差を吸収する ・顧客ごとの差を調整する ・誰にも定義されていない判断を行う
といった処理は、
定型処理のようには 件数化されにくい。
このとき、
自動化された仕事は記録されるが、
自動化できなかったために 人が吸収している差分は、
背景へ退く。
さらに、
過去の熟練者が、
どの定型作業を通じて その判断能力を身につけたのかも、
自動化後には見えにくくなる。
ここで沈黙しているのは、
人が何をしているかだけではなく、 人がどうやってそれをできるようになったか
という生成経路である。
Implication
この構造が進行する場合、
AI導入後の人間の役割は、
単純に、
「より高度な仕事へ移る」
とは限らない。
残るのは、
高度な仕事というより、
計算系がまだ処理できない差分
である可能性がある。
その差分には、
価値の高い専門判断も含まれる。
一方で、
属人的な後始末、 例外吸収、 障害対応、
のような、
負荷は高いが 評価されにくい仕事も含まれる。
したがって、
AIへ移った仕事
だけを見ると、
人間の負担は 軽くなったように見える。
しかし、
人側へ残った仕事の性質
を見ると、
別の変化が現れる可能性がある。
さらに、
現在の熟練者が 例外処理を引き受けられていても、
その熟練を生成した 初級業務の経路が失われれば、
短期的な効率化と、
長期的な技能再生産が、
逆方向へ動くこともありうる。
短期:
標準処理の効率化
長期:
例外対応者の生成経路縮小
という時間差である。
この場合、
企業が観測する必要があるのは、
何人減らせたか、 何時間短縮できたか、
だけではなく、
人側に残った差分を誰が吸収しているか
になる。
Question
AIや計算系へ 標準処理が移ったあと、
人間には、
何が残るのだろうか。
それは、
より創造的な仕事なのか。
より高度な判断なのか。
それとも、
標準化できなかった例外と差分なのか。
通常処理が見えなくなったとき、
異常状態を判断するための経験は、
どこで形成されるのか。
初級業務が消えたあと、
次の熟練者は、
どの経路を通って育つのか。
そして、
AIによる効率化を測るとき、
移動した仕事だけでなく、
移動できずに人側へ濃縮された仕事
まで観測すると、
企業の生産性は、
どのように見え直すだろうか。